2017年新春セミナー 菌から育てる酒蔵見学

日本の国花が桜で、国鳥が雉(きじ)であるように、国菌は麹菌(こうじきん)なのです。
菌だといってあなどるなかれ、和食にとって欠かせない醤油、味噌、みりん、米酢それに日本酒などの製造に「麹」が関わっています。麹菌が穀物を分解することで日本人のソウルフードたちが生まれてくるのです。
麹を育てる現場を見ながら日本の伝統発酵食についてともに学びましょう。

日本全国いたるところに麹菌は存在しています。しかし、今では家庭での味噌作りも酒蔵の日本酒作りも種菌(失敗のないように強力に品種改良された菌)は買ってくるのが当たり前になっています。
そんな常識を打ち破り、蔵内に住む天然菌を採取している驚愕の酒蔵「寺田本家」があります。
日本食事療法士協会の2017年の新春イベントとして、その天然菌を使った酒の仕込みの見学ができることになりました。

お酒好きはもちろん、日本の伝統的な発酵食に興味ある方は一緒に醸造を学びに行ってみませんか?
通常の酒蔵では麹を育てる麹室は聖域であり、見学はNGの酒蔵も多いです。ましてや仕込み真っ盛りのこの時期に、実際に菌を醸し、酒を仕込んでいる様子を見られるなんて、超貴重です。
しかも寺田本家24代目ご当主の寺田優さんに、蔵や仕込みの様子を案内していただき更に、試飲をしながらの当主による発酵セミナーと質疑応答も予定しております。
お楽しみ特典として、昼食として発酵を活用した素敵なベジ弁当を寺田本家さんにご提供していただけます。
2017年のスタートを国菌との触れ合いからはじめ、あなたの健康と知識も醸(かも)してみませんか。


寺田本家外観

ということで行ってまいりました。
千葉県香取郡、寺田本家!

1月の頭から中旬が仕込みのピーク。
一番忙しい時期に蔵を見学させていただきました。


いきなり余談から入りますが、現当主の寺田さんは大阪の生まれで、婿入りで継いだそうです。

寺田家は先代も先々代も婿だったうえ、今も子供が娘なので、次の代も婿になりそうとのこと。すごい女系の強い家系みたいですね。


洗米

寺田さんが自ら蔵の中を案内してくれました。最初に見た作業は米洗い。

米を洗うのも井戸水を使ってできるだけ手作業で。冬場でもそれは変わりません。

「お米に触れる、自分の感覚を大事にして微生物と対話していくのが大事だと思っている」

ということで、機械化されていたのをあえて手作業に戻したそうです。


麹室

こうして洗われたお米は麹室(こうじむろ)へ。

麹室は湿度35℃、湿度50~70%を年中保ち、麹がどんどん成長するのに適した環境になっています。

ちなみに、見学前に気になっていた「納豆を食べた人はこの部屋に入れないんじゃないか?」という素朴な疑問。
麹菌と納豆菌は好む温度が違うので、納豆菌を持ち込んでもそれだけ繁殖することはあまりないそうです。
良かった…。

当日は玄米の麹を作っているところ。ついさっき蒸しあがったばかりのものを中で広げて冷ましているところでした。
湿度がとても高く、入った瞬間に眼鏡のレンズが曇ってしまう。
部屋の中は熱いので、汗だく。ひと冬やったら10kgぐらい痩せるそうです。

炊き立ての玄米が冷めてきたら培養した麴菌(緑色の粉状のもの)を、缶を使ってふりかけのようにかけていきます。
撒いては混ぜて、混ぜては撒いてを3回繰り返して、しっかり米の中まで菌が付くようにします。
この際、しっかり菌を撒くとコクのある酒に、少なめにするとあっさりした味の酒になると言います。


さて、この麹菌。一般的には購入したものを使うので、自家培養している蔵は本当に希少です。

菌の採取方法をうかがうと、夏の間に蒸したコメを蔵の陰に2~3週間置いておき、カビが生えてきたら麹カビを選んで採取しているそうです。
判別のしかたは最初に色(緑色っぽい)で判別。そして食べてみて麹だな、というのをピックアップしてDNA鑑定に出したものを使います。


酒母

次に案内していただいたのは酒母(しゅぼ)室。

ズラッと並んだタンクの中に、酵母菌や乳酸菌を育てる「酒母」が入っています。
これが、大量のお酒を造る大元になるんですね。

寺田本家さんは当然のように酒母は「生酛造り(きもとづくり)」。
要は乳酸菌を一から育てて乳酸を得る、昔ながらの製法です。

柿渋を塗った木桶に麹+蒸したお米+水を入れて、櫂棒ですりつぶしていく。
その作業を唄を唄いながら蔵人勢ぞろいでやります。

なぜ唄を唄うのか?
いくつか理由があります。

・チームワークが生まれる。
・同じリズムですりつぶすことができる。
・微生物が音を聞いて元気に発酵してくれるように。
・楽しい気持ちでやったほうが、良いお酒になりそうな気がする。

唄は20分くらいを3セット(長い!)ということで、時間を計測することで品質のバラツキを抑える狙いもありそうですね。

米洗いなどの作業一つ一つに唄が昔はあったのに、途絶えてやらなくなっていたのを、寺田さんが10年位前から復活したそうです。

こうしてすり終わった酒母を寝かせること50日。
何段階もの発酵を経て、酵母菌がアルコールを発酵させます。


タル

最後に案内していただいたのが、ズラリとタンクの並んだ部屋。
先ほどの酒母をもとにして、タンク一本で一升瓶2,000本の日本酒ができるとか!

とんでもない量ですが、どれくらいのお米が使われているのか?
実に玄米換算で2,400kg。40人が1年で食べる量のお米を使っています!

試飲会

見学が終わった後はお待ちかね、寺田本家さんのお酒試飲♪
どれが一番おいしかったか?というアンケートを取ったのですが、皆さんきれいにバラバラ。
いろんな感性の人が楽しめるバラエティ豊かなお酒ができています。
(自分は車で現地に行ってしまったので試飲に参加できなかったのはナイショ)


「酒は百薬の長」という言葉がありますが、飲んべえの言い訳だと思ってました。正直なところ。
でも寺田本家さんを見学していて、昔の製法だったら本当に「酒は百薬の長」だったのだろうなと。
これだけちゃんと発酵してたら、お酒を楽しみながらカラダも元気になりそうですよね。


あともう一つ。寺田本家さんで使っているお米は契約している農家さんが無農薬で作ったお米です。
それをとんでもない量使っている。

寺田本家さんのお酒を飲む(買う)ことは、無農薬でお米を作っている農家さんを応援することにもなるのが良いですね。
試したことがない方は、ぜひ寺田本家のお酒を味わってみてください。


ちなみに「しぼったまんま」はにごり酒ながら、燗につけても香りが開いておいしいそうですよ!